【「乾かしすぎも、湿りすぎも、」|完結編】
※前回のおはなしをまだ見てない方はぜひそちらからご覧ください
「誰もいなかった、って……どういうこと?」
フロントの言葉を思い返しながら、ミナはチェックアウトの準備をしていた。
あの夜のランドリールームで確かに会話したはずの男性。やっぱり自分の勘違いだったのだろうか。
気になって、もう一度フロントに立ち寄り尋ねてみると、スタッフは「ああ」と頷いた。
「その方、もしかして小柄でグレーのスーツ姿の男性でしたか?」
ミナが驚いてうなずくと、スタッフは続けた。
「その方は長年こちらを出張先にしていた常連のお客様なんです。実は数年前に亡くなられたのですが……。ランドリールームが好きで、よく他のお客様に使い方を教えてくださっていました」
息をのむミナ。
昨夜のあの優しい声と笑顔を、夢や幻覚で片づけることはできない。
チェックアウトを済ませてロビーを出ると、外の空気はひんやりしていた。
ふと鞄の中を覗くと、そこには昨夜洗ったはずのタオルが一枚、丁寧に畳まれて収まっていた。
――「乾かしすぎも、湿りすぎもよくない。」
その言葉が胸に甦り、ミナは小さく笑った。
知らない土地のホテルで、ほんのひととき触れた“幻の住人”。
それは、出張続きで乾きかけていた心を少し潤してくれる不思議な出会いだった。