その他
テーマ「コイン洗濯機」ほのぼのコラム
【学生寮の朝|完結編】
※前回のおはなしをまだ見てない方はぜひそちらからご覧ください
「なあアヤ。卒業したらさ、一緒に…」
振り返った先にいたのは、コウジだった。
いつもの軽い調子じゃなく、少し真剣な眼差しをしている。アヤは胸が高鳴るのを抑えながら、続きを待った。
「一緒にアパート借りて暮らさないか?」
思っていたよりも現実的な言葉に、アヤは思わず笑ってしまう。プロポーズでも告白でもないけれど、それ以上にコウジらしい言葉だった。
「…なんで私?」
「だってさ、もう寮のコインランドリーで順番取り合いするのも最後だろ?アヤとだったら、どんな生活も楽しい気がするんだよ」
回る洗濯機の音が、二人の沈黙を優しく包み込む。アヤはしばらく黙って洗濯槽を見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「うん。悪くないかもね」
それだけで十分だった。寮での日々、仲間たちの声、食堂の味噌汁の匂い。すべてが過ぎ去っていくけれど、ここで築いた思い出と人とのつながりは消えない。
洗濯が終わり、二人で服を取り出す。柔らかな温もりが手に広がる。まるで未来の暮らしを先取りするように。
「よし、次は新しい“家”で一緒にランドリー探しだな」
「ふふ、また順番取り合いになったりして」
笑い合いながら、二人は洗濯物を抱えて寮の廊下へ戻っていった。
それは、卒業を控えた朝に始まった、小さな新しい約束だった。






















